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文化財の概要

文化財名称

由宇町清水の山ノ神祭り

文化財名称(よみがな)

ゆうちょうしみずのやまのかみまつり

市町

岩国市

指定


区分

民俗文化財

一般向け説明

 5年目毎に1月の初めの2日間、くじ引で当屋にあたった家と、「山ノ神の森(モリサマ)」の祭場で行われる祭り。由宇町北西部の山間にある小さな集落・清水地区に伝わるもので、豊かな実りをもたらし、村人を守ってくれる祖霊(先祖の神霊)を森に迎える古い形式の祭事である。焼畑農耕による五穀(ダイズ・アズキ・アワ・キビ・ヒエ)を供え物とすることから、長い歴史を伺い知ることができ、県内の「山ノ神」関係の祭事の系譜を考える上で貴重なものである。以前は、地区のほぼ中央を流れる小川を中心にして、上流側の上組と下流側の下組に分かれ、上組が男神を、下組が女神を祭って、別々に行われていたが、現在は、地区全体のものとして、一緒に行われている。

小学生向け説明

 5年目毎に1月の初めの2日間、「当屋」にあたった家と、「山ノ神の森(モリサマ)」の祭場で行われるもので、豊かな実りと、村人を守ってくれる先祖の神の霊を森に迎える古い形式の祭りです。焼畑農耕による五穀(ダイズ・アズキ・アワ・キビ・ヒエ)を供え物とすることから、長い歴史を想像することが出来ます。以前は、地区のほぼ中央を流れる小川を中心に、上流側の上組と下流側の下組に分かれ、上組が男神を、下組が女神を祭って、別々に行っていましたが、今は、地区全体のものとして、いっしょに行っています

文化財要録

要録名称

由宇町清水の山ノ神祭り

指定区分・種類

無形民俗文化財

指定年月日

平成3年4月5日

保持者

山の神祭保存会

由来及び沿革

(1)地理的位置
 清水は岩国市由宇町北西部の山間(標高約250m)に位置する小集落である。古くは垰<タオ>と呼ばれ、『享保増補村記』(1730年代)によれば祖生村(岩国市周東町)に、『玖珂郡志』(1802年)では通津村(岩国市)に属すが、明治17年に由宇村に編入された。
(2)地名の由来
 清水の地名は川(島田川)の上流に位置し、また、垰と呼ばれてきた旧称は由宇から旧山陽道に抜ける峠道のあったとに由来するものと考えられる。この地名は、昭和10年代から呼ばれ始めたといわれる。
(3)沿革
①鎌倉時代開創と伝えられる清水山薬恩寺(現存しない)があり、室町時代に祖生の領主陶弘護が応仁の乱で上洛する際、この地で戦勝祈願したと伝える。
②江戸時代に刀祢を勤めた矢野家(戸主は矢野和昭)には源義家を家祖とする系図があり、また、一説には平家の落人伝説にまつわる言い伝えもある。
 現在の戸数14戸(人口41人)のうち8戸が矢野姓であり、同族集団の祖神をまつる矢ノ元社をもっている。これが他姓の家にもまつられていることからみると、矢野姓は村の草分けとも推察される。なお、全戸が川下の周東町祖生中村所在の新宮神社の氏子(宮門徒)である。
③ムラ組としては村のほぼ中央を流れる小川を中心にして、上流側のカミジョウ(上組)と下流側のシモジョウ(下組)に分かれる。
 祭りは現在では村全体の行事となっているが、戦前までは上組が男神、下組が女神をまつって別々に行われていた。戦後、村人の生活様式の変化に伴って祭事の進行や内容に多少変化があったものと推察されるが、山ノ神祭りそのものは伝承どおり昔と変わるところはない。
④この地区には、両墓制葬送形態の痕跡が認められる。拝所(詣り墓)は各家の近隣地、葬地(埋め墓)は正覚寺峠(招魂場ともいわれる)とツベタテの2か所にある。
 正覚寺峠には77基の石塔(五輪塔70基、宝筐印塔1基、不明のもの6基)と、埋葬地の墓標とみられる集石3か所が遺存する。
 石塔の製作年代は、形状等の特徴から五輪塔が南北朝時代後期~室町時代末期頃、宝筐印塔は室町時代中期と推定される。
 なお、山ノ神の森はこの丘陵の西側直下にある。
(4)町指定
①種別 … 無形民俗文化財(由宇町指定)
②名称 … 山の神祭り
③指定年月日 … 昭和59年9月18日

内容

(①~⑥の日付は、平成2年の実施日)
(1)話し合い(10月13日(水曜日))
 祭りの約1か月前の夜、各戸主が当屋に集合して祭りの日程、作業分担、買物リスト、経費等の取り決めを行う。
 戦前までは耕地面積により分担が等級付けされていたが、現在では等分である。
(2御水<ゴスイシュ>造り(11月11日(日曜日)))
 祭りの2週間前。当屋は注連綯い<シメナイ>日に使う御水酒(甘酒)造りにとりかかる。御水酒の材料は、地元産の白米5升に糀米1斗を用いる。
(3)注連綯い日(11月18日)
 祭りの2週間前。午前8時に当屋に集まり、分担して午前中にシメナワ(注連縄)類を作り、餅搗を行う。
 餅搗きの材料として糯米4升5合を準備し、うち1升5合は大餅・小餅・カヅラ餅・椎ノ葉餅、残りの3升を撒キ餅分にあてる。なお、当屋の炊飯に要する割木は、各戸から2把ずつ持ち寄る。
 午後から、山ノ神の森(モリサマ)の掃除と神木(男神<オンガミ>・女神<メンガミ>)の飾りつけ(シメナワ巻き)等の準備作業を行う。
①シメナワ類作り
 1)大ジメ(藁蛇)
 男神用 … 1本(三ツ編み平帯、長さ8尋)(1尋は約1.5m)
 女神用 … 1本(二ツ編み、長さ8尋)
2)森ジメ
 男神用 … 1本(長さ55尋、男神の神域に廻らせる)
 女神用 … 1本(長さ45尋、女神の神域に廻らせる) 
 この他、山ノ神の森で獅子舞を行う場所を区画するシメナワ1本(長さ8尋)を準備する。
3)金ジメ
 男神用 … 1本(麻縄、長さ約150cm、賽銭の5円硬貨を2枚付ける)
 女神用 … 1本(麻縄、長さ約150cm、賽銭の5円硬貨を2枚付ける)
4)小シメナワ
 男神用 … 144本(1本の長さ約150cm)
 女神用 … 144本(〃)
5)神殿シメナワ
 床ジメ … 1本(長さ約150cm)
 庭ジメ … 1本(長さ約200cm)
6)ホゴ
 男神用 … 1個(大きさ=上部直径18cm×底部直径20cm×高さ17cm、高さ約30cmの吊下げ用の縄が付く)
 女神用 … 1個(大きさ・形状は男神用に同じ)
7)荒ゴモ
 胴巻ゴモ 2枚(神木に各々1枚づつ巻く、長さ約260cm×幅約100cm)
 シキゴモ 2枚(神官の敷物、長さ約260cm×幅約100cm)
②餅搗き
1)大餅 ……… 8個(4掛)
2)小餅 ……… 30個
3)カヅラ餅 … 48個(丸餅24個をカヅラに通して首飾状に結んだものが2巻)
4)椎ノ葉餅 … 8個(紡錘形の小餅)
5)撒キ餅 …… 数十個
③森飾り
1)ほぼ半日かけて山ノ神の森周辺の藪を刈り、朽ち果てた前回の祭具を始末する。
2)男神(樫の大樹、樹高約8m、目通直径約60cm)と女神(杉の大樹、樹高約10m、目通直径約80cm)の間を流れる小川の橋を行進する。
3)神木のシメナワ巻きは、今回は女神から男神の順であった。この順序は本来取り決めがあったと思われるが、現在ではとくに樹勢されていないようである。
4)シメナワ巻きの作業過程はいずれも同じく、まず胴巻ゴモを神木に巻き付け、その上に大ジメを右巻きにする。大ジメは小シメナワで縦横無尽に縛って固定し、男神に檜、女神に樫の小枝を差し込んで仕上げる。
5)森ジメで男神と女神の各神域を区画し、シメナワで獅子舞の場所を設定する。
(4)前夜祭(ヨドマツリ)(11月24日)(土曜日))
①準備
1)午前中、祭具となる竹材(種類=ハチク、シノビ竹)を付近で調達する。
2)午後2時~6時頃まで、神官の指示により幣串(シノビ竹使用)を作り、当屋の祭壇を飾る。幣串の種類は、次のとおり。
 大幣<オオヘイ>串(5本幣)
  男神用 … 5本、長さ150cm  
  女神用 … 5本、長さ150cm  
 中幣<ナカヘイ>串(3本幣)
  男神用 … 3本、長さ90cm  
  女神用 … 3本、長さ90cm 
 小幣<コヘイ>串(32本幣)
  64本、長さ45cm
 割幣<ワリヘイ>串(32本幣)
  64本、長さ45cm
 中上幣<モウシアゲベイ>串(32本幣)
  2本、長さ60cm
3)祭壇はカミノマの神座に向かって右側に男神、左側に女神を祭り、幣串・榊・供物で飾られる。榊は真榊4本・枝榊2本・玉串8本・祓串1本を準備する。供物は男神・女神ともに同じく塩水入りの清メ桶<キヨメタゴ>・御水酒の入ったからわけ2対・米(オクジ米)3合・玄米2升・小餅・五穀・果物等である。
 このうち五穀は、各戸から持ち寄ったダイズ・アズキ・アワ・キビ・ヒエである。
4)当屋の前庭に鳥居<トリイ>を設ける。これは当屋への神の出入口となるものである。
②神事
1)当屋に男性戸主が集まり、午後7時より清メ式(神事奏上祭、野見立祭)、続いて竈祭りがある。清め式はカミノマ(ザシキ)、竈祭りはヨコザとダイドコで行われ、神官の祝詞には楽(フエ1人・タイコ1人)が加わる。
 竈祭りは竈の神である三宝荒神の祭りであり、玄米1升、御水酒の入ったかわらけ2対・小餅1掛を3膳分(トシトコ・トシガミ・ヘッツイの3か所に神棚がある)供える。
③直会
1)神事後、カミノマとシモノマを開放して直会をする。煮しめが男(オン)と女(メン)の2つのホゴにつがれ、次に一同の皿に盛られる。
(5)本祭り (11月25日(日曜日))
①神事
1)午前11時頃から、当屋で家祓<ヤバライ>祭りが行われ、当屋を出る前に神官が各部屋で御祓をする。玄米3合、煎った五穀及び鯛が男神・女神の各々に供えられる。
2)続いて、当屋の前庭で楽(フエ、タイコ、テビョウシ)を伴った獅子舞がある。
②御神幸<ゴシンコウ>
1)獅子舞終了後、行列を組み、川下側(沖という)の山ノ神の森の祭場へ向かう。御神幸と呼ばれるこの行列の構成(順序)は次のとおり。
 猿田彦神
 清メ桶
 祓串
 大幣串(5本幣)  
 中幣串(3本幣)  
 小幣串(32本幣)  
 割幣串(32本幣)
 真榊
 申上幣(当屋持ち、当屋の衣装は紋付・羽織・袴)
 玄米
 五穀
 大餅
 小餅
 椎ノ葉餅
 カヅラ餅
 掛鯛(2掛)
 撒キ餅
 金ジメ
 御水酒
 玉串(6本)
 ホゴ(2個)
 御燈明(2基)
 楽人(フエ1人、タイコ1人、タイコ持ち2人)
 神官(2人)
 神饌櫃
 シキゴモ(2枚)
 参拝者
③山ノ神祭り
1)山ノ神の森へ到着すると両神木に供物を飾り、大ジメに幣串を挿し込む。
2)神事は楽を伴った獅子舞から開始され、続いて男神・女神へと移る。両神木に神官各々が対面して祝詞を奏上(楽を伴う)し、当屋・各戸主が玉串を奉献する。
3)神事後、男神前で次回の当屋を決めるクジ(セメクジ)を行い、今回の当屋が女神側に向かって結果を発表する。なお、クジはこれまで当屋経験のない2戸(戸主は矢野昌男と矢野和昭)があらかじめ準備された長短2本の藁を引き、長い方を引き当てた前者が次回の当屋に決定した。
4)男神側の参拝者は女神を、女神側のそれは男神を拝する。
5)最後に、小川を挟んだ両神木間で供物(餅・鯛)を投げ合う。拾った供物は家に持ち帰らず、必ずその場で焼いて食べる。同時に御神酒(御水酒)の振舞いがあり、すべての行事が終了する。
6)シメナワ等の祭具はそのまま残し、後片付けはしない。
④清算(11月26日)
1)本祭りの翌日に経費一切を清算し、各家等分にこれを支払う。  
  

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