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文化財の概要

文化財名称

滝坂神楽舞

文化財名称(よみがな)

たきさかかぐらまい

市町

長門市

指定


区分

民俗文化財

一般向け説明

 10月21日の黄幡社例祭に奉納される神楽。滝坂の氏神・黄幡社は、1636年(寛永14)に勧請したと言われ、「明和元申甲年(1764)社殿建立」という棟札が残っている。黄幡社は、中国地方の山間部に多く分布し、五穀豊穣・牛馬安全の守護神として信仰されているが、滝坂においても、棟札の年代に、3年続きの大飢饉と牛馬の疫病から免れようと、厄払い祈願の神楽を奉納したと伝えられている。明治の初めの社人神楽禁止に伴って、神楽は農民の手に移り、奉仕者は、農家の長男を舞子とする習わしとなっている。演じられる曲目の中には、荒神祭祀の古い儀式を思わせるものが含まれていて、里神楽として貴重な存在であると考えられている。
 国により記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財として選択されている。

小学生向け説明

 10月21日の黄幡社例祭に奉納される神楽です。滝坂の氏神・黄幡社は、1636年(寛永14)に迎えられたと言われていますが、1764年(明和 1)ごろに、3年続きの大飢饉と牛や馬の疫病から免れようとして、厄払いを祈る神楽を奉納したと伝えられています。明治の初め、神楽は農民の手に移り、農家の長男を舞子とする習わしとなっています。演じられる曲目の中には、荒神を祀る古い儀式を思わせるものが含まれていて、里神楽として貴重なものと考えられています。
 国により記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財として選択されています。

文化財要録

要録名称

滝坂神楽舞

指定区分・種類

県指定無形民俗文化財

指定年月日

昭和51年11月24日 (山口県教育委員会告示 第7号)

所在地

長門市

保持者

滝坂神楽舞保存会

時期及び場所

 黄幡社の10月21日の例祭に奉納される。 

由来及び沿革

 滝坂の氏神黄幡社は、寛永14丁丑年(1636)の勧請と云われ、明治元申甲年(1764)社殿建立の棟札が現存する。
 黄幡社は中国地方の山間部に多く分布し、五穀豊穣、牛馬安全の守護神として奉斎されて来たものであるが、滝坂の黄幡社においても、前記棟札の年代において、3年続きの大飢饉と牛馬の疫病に斃るるのを免れんために、厄払い祈願の神楽を奉納したと伝えられている。
 滝坂神楽は明治初年社人神楽の禁止に伴って農民の手に移り、以後神楽に奉仕するものは農家の長男を舞子とする習しを以って現在に至っている。

内容

(1)足均舞
 舞始めで芝居の三番叟にあたる。ところによれば「さんば」というところもある。
(2)参舞(撒米)
 舞台を祓い清める舞で、東西南北及び中央正面に向って「禊祓い」「六根清浄大祓い」を唱え、米を撒き散らす。
(3)所均舞
 日本国土のはじまりをあらわす口上を唱え、村の繁昌、五穀豊饒を祈願する舞。一舞して口上、正面に向い右足を少し引いた姿で前かがみになり左手扇子を「アゴ」に当て鈴は後腰に当てがい、口上の切れ目切れ目で鈴を鳴らし前に出し又元の腰に戻す。
 舞は袖巻きの四方(先に扇子をそびき後ずさり、左より次に扇を背にかるう後すだり右より)、羽返しを交互に二回行う。
 舞い方は足均と同じであるが老翁の舞であるから少し手振り足振りがたよたよとし、少し腰をかがめて舞う。
(4)天蓋舞
 伊弉諾尊、伊弉冉尊、二神国生み、日の大神(天照大神)の御誕生に天上り華を降らし、雄竜、雌竜は大空に高く舞い飛び遊び、紫雲天にたなびき、美雲流れる中に天女の舞う姿をあらわす。
 舞い方は足均と同じ。一舞して天蓋を引く。(初め上下すれ違いに引き次に神殿、四方、四角に引き、一舞して終り。)
(5)幣四天の舞
 四天王の、持国天(東方の護世王)、増長天(南方の護世王)、広目天(西方の護世王)、多聞天(北方の護世王)が東、西、南、北を護り鎮める舞。
 羽返しの舞3回。座して一人一人舞い、次いで幣を集めて舞い、立って一舞して幣をはなし、手つき3回。(○手つき→打ち切りでやや外向きになり右膝をつき鈴をつき、幣を後上げに中央に集る様にあげる。これを交互3回)
(6)尉の舞
 天鈿女命が天岩戸の前で舞うものであるが、舞は女性を忌むので老爺に代えて舞う。祓いを引きながら出て、杖を背にかるい舞い、羽返しと肩かるいとを交替に四方に舞い、杖を振って岩戸に近寄り、杖をあずけて幣で座って舞い立って四方羽返し、次に岩戸で杖を貰い一舞する。
 天の岩戸の前で一人が天蓋を持って控え、他の一人がその前で舞う。舞初めのときは舞台の神前から始めるが、あとは始終天の岩戸になぞらえた天蓋に向って舞う。
(7)手刀男命舞
 天の岩戸開きの舞
 勢いこめて出て扇子を額に当て左右を廻り舞い打ち切りの後四方を押す。岩戸へ行って空手で立ち四方を押し、次に榊を持って一舞し、榊をすてて岩戸を明け(明ける時引張って明けにくい身振りをする)次に岩戸で一舞、舞い岩戸をおさめて杖を取り一舞する。
(8)四剣の舞
 四人の神々が岩戸の前で天照大神を慰めようとする舞で悪鬼を払い、尾張熱田宮に祝込む舞。
 剣を腰に差し、扇子を持って打ち合せ3回、剣を抜いて打合わせ3回、次に真手で四方、逆手で四方、振り、仕切、剣を枡形に置き宮宝剣をとなえる。次に「ハタゴ」、終りに剣と扇子と一緒に持って打ち合せ1回。
 ハタゴ→枡形においた剣を両手に取り打合せ3回、さか手で打ち合せ3回、其後ハタゴに移る。4人が剣を持ち合い(太鼓)タン タンタ タカス タンタで互に左手をあげ、右廻りタカス タタで左手を下げ右手を上げて逆廻りタンタンで終り、枡形の位置に止る。引続き向い合う2人で(太鼓)タンタカスタ、タンタカ タ、で前に出て剣を上げる。こんどは太鼓に合わせて前に出た人が後ろに下り後の人が前に出て剣を上げる、是を2回繰り返し、元の枡形の位置に帰る。今度は2人が1角程剣を上げ相手の2人がここをくぐり、残り2人も体をひねり4人が背中合せの枡形となり前と同じ動作を2回やり前にくぐった人が逆にくぐり戻り1廻りして終る。
(9)三宝荒神舞
 火の荒き神を和め鎮める舞、三宝は鏡、玉、釼の三つ、智、仁、勇の三能をいう。
 幣四天の舞と同じ舞
(10)帯の舞
 安産を願い、子孫繁栄を願う舞。
 打ち合せ3回、2人座って向い合い、交替に立って舞い、2人立って帯を広げて舞い羽返しと膝車交替2回ずつ、帯を修めて一舞。
(11)綱の舞
 国中の荒振る神等を神掃う舞。
 各自羽返し3回、つなくぐり、打合せ2回次につなをたぐり幣を取り舞戻って一舞する。
 打切り小くぐり2回、次の打切りで大くぐり「高山の峯に昇りましまして」と唱え元の所にくぐり戻る。こんどの打ち切りで綱をたぐり幣を取りに行き舞い下って打切りして舞初め羽返し3回の舞いして終る。
(12)登鉾の舞
 老爺が卑俗な所作で、天の岩戸聞きを行う舞。登鉾は陽性、岩戸は陰性をあらわし、男女和合を象徴したもの。
 一舞して口上(別記)次に羽返しと鉾つき交代に四方を舞い、次に神主との対話、後一舞、神主は四方舞(撒舞と同じ。面白く舞うこと。)
(13)矢剣の舞
 剣を持った将軍が、悪鬼払いの意味で、天の岩戸の前で舞うもの。
 剣は腰で、弓を持って舞、打合せ3回、四方つる引き、剣を抜いて四方を舞い、剣を収めて一舞する。
 先ず神前に向い前進、後退と舞い打切りに合せて、弓を張り前に2足程出てくるくる廻って後下りして舞い始める。
(14)山おうりの舞
 (二人背合せ)「足均」の舞いを二人で背合せに舞い、羽返し3回。
(15)三つ山舞
 調子違いの背合せ。
 幣を右の肩にかつぎ、腰をかがめ左廻りし、こんど幣を左肩にかつぎ、腰をかがめ右廻りの形で舞う。打合せ3回と手つき3回(ホウの掛声)
(16)両剣の舞
 天の岩戸の前で一人の神が両剣で祝い舞う。
 剣は腰、扇子で打合せ3回、剣を抜いて両剣で四方、舞う内の打切りでかえる。剣を接いで3回(打切)逆手で四方、剣を収めて扇子と剣を一緒に持って一舞。
(17)宇太刀の舞
 四剣の半分の舞。
(18)当社の舞
 悪鬼払いの意味の弓舞。
 神殿に向い一舞。次に向い合って打合せ3回。四方、つる引き「弓一人くぐり」2回、二人くぐり膝車の後弓を合せて前後にまわる2回。羽返しと膝車交替2回。終りに一舞。
(19)せりふの舞
 四人の兄弟が親の財産分配について相談している時、もう一人の弟が自分も強引に配分にあずかろうとする。弟は立腹し、決闘しようといって退場、もう一人の弟が阿呆の真似をして兄弟喧嘩を猛烈に揶揄する。
 幣の舞で打合せ。五郎の舞のみ少し違う。
 太郎以下四人が幣と鈴を持って舞っている。そのうち五郎が出て舞う。そして太郎と五郎の問答が始まる。
(20)恵比須の舞
 農作の手並と狩猟の手並を、田恵比須と磯恵比須が競い合う。磯恵比須の剽軽振りな舞。
(21)所望分の舞
 番子大王は梵天で、梵天王は娑婆界を領し、日時を掌ったのでその子5人が、父の死後、日時を掌ることから争いを生じた舞。
(22)火の舞
 荒びすさぶ火を和め鎮める舞。「オガラ(麻幹)」に火をつけて舞う。
 打合せ3回。羽返しと膝車交替に2回。
(23)神明の舞
 人間の世界と鬼の住む世界即ち魔性の世界とのへだたりを宣言する舞。
 鬼の面を冠った鬼人が神明を「天照大神の光がなくとも我が光の下で暮せ」と魔性の光の下へ連れ去ろうとするが、神明はそれを拒み続け、遂に「これは汝等魔性鬼人の住む国にあらず」と宣言し、鬼人は神より貰った福の種を蒔き散らして舞い、神は鬼人が自分を結びつけようとする綱を断切り、鬼人を追い払い、悪魔退散、福の将来を喜んで舞う。
 先ず綱を張り鬼神は手力男命の舞と同じ。
 空手で綱に向って舞う内に神明は鬼神の反対の位置に立ち問答にうつる。後綱を切る。
(24)舞終めの舞
 舞終めで初めの足ならしに同じである。

構成

[舞方人数]
(1)足均舞 1人 (2)参舞(撒舞) 3人 (3)所均舞 1人 (4)天蓋舞 1人 (5)幣四天の舞 4人 (6)尉の舞 2人 (7)手力男命舞 1人 (8)四剣の舞 4人 (9)三方荒神舞 3人 (10)帯の舞 2人 (11)綱の舞 2人 (12)登鉾の舞 2人 (13)矢剣の舞 1人 (14)山おうり 2人 (15)三つ山の舞 2人 (16)両剣の舞 1人 (17)宇太刀の舞 2人 (18)当社の舞 2人 (19)せりふの舞 5人 (20)恵比須の舞 3人 (21)所望分の舞 9人 (22)火の舞 2人 (23)神明の舞 2人 (24)舞終めの舞 1人

設備・衣装・用具

(1)足均舞
 採物 幣、鈴
 衣装 紋付、袴、ゆたすき、烏帽子
(2)参舞(撒米)
 採物 扇、鈴、供米膳三
 衣装 青、赤、白の衣、白袴、烏帽子
(3)所均舞
 採物 扇、鈴
 衣装 白衣、袴、烏帽子、面
(4)天蓋舞
 採物 幣、鈴
 衣装 紋付、袴、ゆだすき、烏帽子
(5)幣四天の舞
 採物 幣、鈴
 衣装 紋付、袴、ゆだすき、烏帽子
(6)尉の舞
 採物 幣、鈴
 衣装 白衣、袴、ゆだすき、烏帽子、面
(7)手力男命舞
 採物 剣、杖、扇子
 衣装 赤衣、白鉢巻、赤脚袢、赤手甲、鬼面、しゃぐま、鬼のかつら
(8)四剣の舞
 採物 剣、扇、鈴
 衣装 烏帽子、紋付、袴、ゆだすき
(9)三方荒神舞
 採物 幣、鈴
 衣装 紋付、袴、烏帽子、ゆだすき
(10)帯の舞
 採物 鈴、帯
 衣装 烏帽子、紋付、袴、ゆだすき
(11)綱の舞
 採物 鈴、帯
 衣装 烏帽子、紋付、袴、ゆだすき
(12)登鉾の舞
 採物 (爺)鈴
 衣装 (爺)烏帽子、白衣、袴、ゆだすき、(神主)ほおかむり、たすき、面
(13)矢剣の舞
 採物 剣、弓、鈴
 衣装 手力男命の衣装
(14)山おうり
 採物 幣、鈴
 衣装 烏帽子、紋付、袴、ゆだすき
(15)三つ山の舞
 採物 幣、鈴
 衣装 烏帽子、紋付、袴、ゆだすき
(16)両剣の舞
 採物 剣、扇子、鈴
 衣装 手力男命の衣装
(17)宇太刀の舞
 採物 剣、扇子、鈴
 衣装 烏帽子、紋付、袴、ゆだすき
(18)当社の舞
 採物 弓、鈴
 衣装 烏帽子、紋付、袴、ゆだすき
(19)せりふの舞
 採物 幣、鈴、扇子
 衣装 烏帽子、ゆだすき、袴、面
 (太郎)青色衣、(次郎)赤色衣、(三郎)白色衣、(四郎)黄色衣、(五郎)緑色衣、
(20)恵比須の舞
 採物 幣、鈴、(三郎)釣竿
 衣装 烏帽子、袴、ゆだすき、面
 (太郎)青色衣、(次郎)赤色衣、(三郎)ほおかむり、たすき
(21)所望分の舞
 採物 (太郎、次郎、三郎、四郎)、弓、鈴、(六郎)、剣、扇子、大物
 衣装 (太郎)青色衣、袴、烏帽子、ゆだすき、面(次郎)、青色衣、袴、烏帽子ゆだすき、(三郎)白衣、袴、烏帽子、ゆだすき(四郎)黄色衣、袴、烏帽子、えだすき、(姫宮)紋付、袴、(五郎)手力男名の衣装、(六郎)面、ほおかむり、ゆだすき
(22)火の舞
 採物 鈴、たいまつ
 衣装 烏帽子、紋付、袴、ゆだすき
(23)神明の舞
 採物 (鬼神)剣、杖、扇子
 衣装 (神明)烏帽子、青衣、袴、ゆだすき、面(鬼神)手力男命の衣裳
(24)舞終めの舞
 採物 幣、鈴
 衣装 烏帽子、紋付、袴、ゆだすき三宝、幕、帯、綱、天蓋(用具)
錫杖、剣、弓矢、幣、扇子、杖

特色

 滝坂神楽は氏神黄幡社の例祭其他に演奏されるものであるが、現行の曲目の中には荒神祭祀の古儀を思わせる曲目が含まれている。このことは岩国市行波の神舞を始め各地にも見られるが、滝坂神社においても、天蓋行事、当社(将軍)、火の舞、神明(綱切り)などは、いずれも人間死後一定の期間を置いて後、祖霊荒神に加入するための儀式である。当社の弓くぐりに於いて神がかりし、火の舞によって神懸し、神明(綱切り)によって所謂鱗打ちがなされて、新霊が清まって祖霊に加入することが出来たのであった。
 このような荒神神楽の託宣儀式を今日なお断片的ながらも伝承して来たことはまことに里神楽として貴重な存在と思われる。尚今一つは登鉾の舞と恵比須舞に於ける狂言舞の言立に見える土臭さである。狂言としての笑と云うものが如何に重要であったかと云うことを知ることができる。

画像

滝坂神楽舞 関連画像001

滝坂神楽舞 関連画像002

滝坂神楽舞 関連画像003

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