先月、国指定重要文化財 旧毛利家本邸画像堂の保存修理事業が完了し、竣工式が執り行われましたので、今回はこの画像堂を例に、文化財建造物の保存修理についてご説明したいと思います。
文化財建造物の保存修理は、破損や劣化の状況に応じて、「小修理」「維持修理」「根本修理」に区分されます。画像堂では瓦屋根を葺替えることを主な目的とした維持修理でしたが、雨漏りにより傷んだ野地・小屋組・軒についても部分的に解体し、修理を行いました。
小修理 :
屋根や壁の部分補修等、日常的に傷みやすい箇所の補修。
維持修理:
周期的に行う必要のある屋根の葺替えや塗装の塗替え等、建造物の機能を維持するための修理。
根本修理:
柱や梁等の主要構造部まで破損してしまった場合に、建造物を解体し、破損箇所の修理・補強を行い、建造物全体の健全化を図る修理。全ての部材を解体する「解体修理」や軸部の一部を解体せずに修理する「半解体修理」があります。
修理にあたっては、文化財としての価値を損ねることのないように、慎重に調査を行い、修理の方針を検討する必要があります。維持修理や根本修理の際は、国指定の文化財建造物では、多くの場合、国庫補助を受けることとなりますが、設計監理を行うことができるのは、文化庁の承認を受けた主任技術者のみです。この主任技術者により、現地の実測調査や資料調査を行い、解体範囲や部材の取替方法等を決定し、修理を進めていきます。
建造物の解体にあたっては、建設時とは逆の手順で、屋根葺材から順に、取り外していきます。可能な限り既存の部材を再利用し、解体前と同様に復旧するために、どの部材が、どこに、どのように収まっていたか、記録を残すことは非常に重要です。瓦葺屋根の解体の場合、手作業で取り外した瓦を形状ごとに分類し、1つ1つ再利用できるものか確認を行います。
また、近年では、維持修理や根本修理と併せ、耐震改修を行う事例が多くあります。特に一般公開により不特定多数の見学者が訪れるような建造物は、人命を守るため、耐震性の確保についても求められています。県内の国指定の文化財建造物の耐震対策の調査結果については、以前の記事でご紹介していますので、こちらもご覧ください。
一般的な耐震改修といえば、鉄骨のブレースを取り付ける等、改修の跡が外観に表れることが多いと思いますが、文化財建造物では文化財の価値を可能な限り維持する必要があることから、外観上の変化はないようにする等の配慮の上、耐震改修を行います。画像堂では、天井裏の空間にブレースを設置する、外壁の内部に構造用合板を設置することで耐震性を確保しましたが、修理が終わった今となっては、それらを確認することはできません。
旧毛利家本邸画像堂
このように、文化財建造物の保存修理は、文化財の価値を維持することを目的に、様々な配慮のもとに行われています。旧毛利家本邸画像堂の保存修理も、主任技術者を始めとした多くの専門家や技術者の尽力により事業を完了することができました。その成果を是非、一度ご覧になっていただきたいと思います。(t)
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