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2024/07/12 【文化財小話】山口県庁にある城跡 ~山口城跡~

 山口県の皆さんは、山口県庁の敷地内に重要文化財の旧山口県庁舎・県会議事堂(現:県政資料館)があることを御存知の方は多いと思います。しかし、県庁の敷地に城跡があることは意外と知られていません。今回はこの城跡に注目します。

 城跡の名前は「山口城跡」(正式な遺跡名は「山口藩庁跡」)、幕末に萩藩主毛利敬親が築城した城郭です。山口城は、文久4年(1864)1月に施工され、10月に竣工したとされています。当時は「御屋形」「山口新屋形」などと呼ばれていました。しかし、同年11月には、征長(幕府による長州征討)講和のため城は破却、慶応元年(1865)に藩主による城の修復命令が発出され、翌年(1866)に修復が完了したとされています。その後、明治3年(1870)に山口藩庁となり、翌年(1871)の廃藩置県に伴い山口県庁と改称されます。

 広い領国の中で、幕末における新たな居城地として、なぜこの地が選ばれたのでしょうか。主に3つの理由が推定されています。一つ目は海から離れていること。当時の萩藩は攘夷を国是としており、外国との戦闘を想定した場合、戦いの最前線となりえる場所は避ける必要がありました。二つ目は領国経営の効率化を図るため。緊迫した時勢のもと、領国に迅速な連絡網を保つためには、拠点は領国内の中央が望ましいと考えたからのようです。三つ目は軍事的に優れた地形であること。山口城跡は山口盆地の北側に立地します(写真1)。ここは、背後に香山を控え、前面に大内盆地を臨む地形です。「山口移鎮記」には、城について「険山を後ニかた取り平原を前になし、平山城を築造仕候」と記されていますが、築城において、平地を臨む高台の地形が重視されたことがうかがえます。現在の山口市、中でも県庁のある場所はこれらの諸条件に適っていると判断されたようです。


【文化財小話】山口県庁にある城跡 ~山口城跡~

写真1

【文化財小話】山口県庁にある城跡 ~山口城跡~

図1


 次に、山口城跡の構造を考えてみましょう。当時の城の様子を知るには、近世の絵図と現地に残る遺構が重要な手がかりになります。特に「山口御屋形差図」(山口県文書館所蔵)には城跡の平面図が詳細に描かれています。図1は、この絵図を現在の地図と重ね合わせたものですが、この図を元に、これから城跡の構造や施設を読み解いていきましょう。

 まず、山口城の中枢部、現在の庁舎に当たる「御殿」ですが、現在の県庁敷地内にある「山口県旧県庁舎及び県会議事堂」(重要文化財)の辺りにありました。これらの建物は、幕末の御殿の建替えとして建築されたともいえます。次に、城跡の範囲ですが、香山と丸山(現在は消滅)、及びこれに取り付く土塁・水堀・柵で囲まれた範囲が城域です。囲郭施設としては、城の南東~南側にかけては水堀と土塁を巡らせますが、北東部は土塁のみの作りです。また、香山と丸山の間は、簡易な柵で区画されます。これらのうち、南東側と南側には、現在も上部まで土塁がよく残っている箇所があります(図1>。また、水堀や県庁の北東部には石垣がありますが、これは本来、土塁の基礎を固めた腰巻石垣、つまり土塁の一部です(写真2)。

 城跡の外周施設は、水堀、土塁、柵など様々ですが、水堀と土塁の組合せにより、二重に外部と区画された南東~南側が城の正面です。門は全部で4箇所描かれており、大手門(正面の門)は、現在の旧山口藩庁門(県指定文化財)の辺りになります。なお、この門は明治3年(1870)に建てられたもので、山口城創建時とは、場所や形が変わっています。

 城跡の平面形は全体的に不整形ですが、塁線の要所には突き出た角が作り出されています。この角は「稜堡」と呼ばれる西洋式城郭特有の構造と考えられています。このことから、山口城跡は、有名な五稜郭跡(特別史跡、函館市)などのような星形ではないものの、近代砲撃戦を想定して構築された砲台を備えた西洋式城郭であったと考えられています。なお、山口城跡は「八稜城」(山口移鎮記)と表現されています。絵図には砲台の場所は描かれていませんが、現存する土塁の一部(旧山口藩庁門のすぐ南)には砲座を思わせる段があり、このことを裏付けます。

 山口城跡の実態については、これまで絵図や現存する遺構から推定することしかできませんでしたが、令和5年度(2023)、文化振興課が小規模な発掘調査を実施しました。調査箇所は城跡北東部の一画です。調査では、城跡の土塁の土木的な構造などが明らかになり、当時の土木技術や時勢に合わせたかのような急造性をうかがうことができました。これらの調査成果の概要は、山口県ホームページ※に掲載しており、詳細は県内各所の図書館にある『山口藩庁跡(山口城跡)』(山口県、2024)で見ることができます。また、発掘調査地には解説板も設置しました(写真3)。興味のある方はぜひご覧ください。(I)


https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/97/246080.html


【文化財小話】山口県庁にある城跡 ~山口城跡~

写真2

【文化財小話】山口県庁にある城跡 ~山口城跡~

写真3