山口県教育庁社会教育・文化財課では、平成27年度から令和元年度にかけて萩市大井地区の遺跡分布調査を実施し、その成果をまとめて『萩市大井地区所在遺跡』を刊行しました。
令和4年度に組織改編があり埋蔵文化財業務は文化振興課に移りましたが、引き続き成果のこぼれ話として三明戸城跡(みあけどじょうあと)を紹介します。
三明戸城跡は、大井地区の南端、「平成の名水百選」に選ばれた三明戸湧水の近くの丘陵上にあります。この丘陵は大きく蛇行する大井川に迫っているため、大井川が自然の堀の役目を果たし、丘陵自体も急斜面でもあるため、北側から攻めるのは非常に困難な地形です。
城跡は丘陵の頂部とその東に派生する尾根先端に造られた2つの郭群で構成され、両者の間は通路でつながっています。一番高いところにある西側の郭群が主郭、東側の郭群が副郭なのでしょう。
大井地区空中写真
三明戸城跡縄張り図
主郭は幅約20m、長さ約38mあり広大です。東側、北側、西側にそれぞれ曲輪を配置し、その先はそれぞれ堀切で遮断されています。残る南側は谷筋が迫った急斜面なので、四方いずれにも備えた防御性の高い構造となっています。
副郭は直径約20mの円形で、その中にさらに20~30㎝ほどの高まりがあります。しっかりとした切岸をつくっており、特に西側は尾根を堀切によって大きく分断し、高さ約3.5mの急勾配となっています。
三明戸城跡は、旧阿武郡内では鰐坊山城跡(萩市田万川)、元山城跡(山口市阿東)、渡川城跡(山口市阿東)に次ぐ規模を持ち、防御性も高いことから、国人領主級の城跡だと考えられます。
上記は、長年にわたって山城を研究され、山口県の山城も数多く踏査された中村修身先生(元山口県中世城館遺跡総合調査委員)とともに現地を歩いた時の所見にもとづいています。当然ながら、専門的な所見は専門家に聞かなければわかりません。しかしその一方で、地元住民の方が専門家よりも強い側面もあります。それは、「地元のどこにどんなものがあるか、あるいは伝承があるか」を知っていることです。
中村先生は、以前から何度も大井地区を訪れ、山城を求めて歩き回られていたそうですが、三明戸城跡については、自分では発見することができませんでした。しかし、三明戸城跡は地元の歴史に興味ある方々にとっては、よく知られている遺跡の一つでした。
地元の情報と専門家の知識の両方があってはじめて、文化財の所在と価値が定まることを示す良い事例です。(n)
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