名称関連 | 文化財名称 | 大般若経 |
要録名称 | 大般若経 巻第八十二 養和元年八月八日朱筆校合奥書 付 唐櫃 | |
指定関連 | 指定区分・種類 | 有形文化財(典籍) |
指定年月日 | 平成7年1月13日 | |
所在地関連 | 所在地 | |
所有者関連 | 所有者 |
書写の経緯等は詳らかでない。室町時代には、応永26年(1419)と、永禄8年(1565)の2度、修復が行われている。
本経が、生見地区に伝来した時期は、明かでない。仮に、永禄8年の補写にあたった「周聡」が、生見村神宮寺の歴住中の「草立周聡禅師」であるとすれば、この時期に、すでに生見地区に所在していた可能性が強い。
また、巻大六百末尾の修理記事並びに、「防長風土注進案」生見村盛久寺の項によれば、同村真教寺に伝世していたものを、慶安年中(1648~52)に、地下医師中村玄室が、施主頭となって修復し、栄福寺に納めたことが知れる。この後、宝暦12年(1762)、文化3年(1806)に、修理が行われている。
宝暦の修理では、修理記事の筆者である中村玄貞、同玄仙を中心に、生見村内の6寺院の僧侶6名、村役人等有志20名余の協力のもと、中村一族の開基と伝える同村中村の善秀寺において、各々分担して、裏打や補写に取り組んでいる。参加形態からみて、生見村をあげての事業であったと、推定される。
文化3年には、前回修理にあたった中村玄仙が、一人で修復、補写を行った旨、玄仙自身の奥書に記されている。
宝暦・文化両修理の中心人物は、いずれも中村姓であり、本経本と小村中村を名字の地とする歴代中村氏との関係も、看過できない(中村氏の由来については、「生見村中村玄貞由来」寛保元年・地下上申所収、がある)。
なお、この後、天保頃には、同村盛久寺の寺宝となっていたことが、知られる(「防長風土注進案」生見村盛久寺の頃)。
以後の伝来経緯は明らかでないが、同村中村にある栄福寺の古跡と見られる観音堂に納められ、現在に至っている。
栄福寺の由来・沿革については、不明である。巻第六百にある、宝暦12年(1762)の修理記事では、本経を、「栄福寺大般若経」としているが、寛保元年(1741)時点で、岩国禅宗永興寺本寺のひとつ栄福寺は、「従往古之古跡」と記されている(「寺社由来」盛久寺の頃)。また、寛永2年(1749)時点で、「同(禅)宗栄福寺古跡観音 中村ニ有之」(「地下上申」)と記されている。
(形状、形式、寸法)
素紙経。折本装。全600帖の全員が伝わる。10帖毎に1帙に納め、さらに20帙を、一まとまりとして、唐櫃3合に収納する。
各帖の形状は、表と裏に表紙を備え、表表紙に「大般若波羅蜜多経」の経名および巻次と、整理のための千字文を記した外題箋を貼る。
帙は、全体に渋引きを施す。表には、例えば、「初百内一之帙 天」等のように、100帖毎における帙番号と千字文が記される。
装幀は、巻子装を折本装に改装したものである。改装時期については、断定し得ない。改装の際に天地を切りそろえる。新補の表紙の芯に、室町時代の雁皮紙の写経切を転用したものがあり、さらに同経切を、裏打紙に利用した箇所もある。現状の表紙と帙は、江戸時代の修理の際のものである。
各帖の大きさは、標準的に縦23cm、横9cm。白色ないしは茶・淡茶色の斐紙とみられる料紙で、大半に裏打ちが施される。本紙補強のため、裏打紙に渋引きの刷毛目がある帖も、少なくない。
経本の巻首巻尾には、経名と巻次、千字文が記される。経文は、通例の1行17字詰の他に、15~19字詰の箇所もある。1折5行詰。本紙の経文は、淡墨界中に書写される。近世の補写には、押界の部分が多い。
巻第八十二に、「又一校了 養和元年八月八日 僧道重」の朱筆校合奥書があり、書写は、養和元年(1181)と、ほど遠からぬ頃と考えられる。僧道重なる人物については、不詳。朱句点がある帖数は、182帖。また、これに、朱句点はないが僧道重筆と見なされる、朱筆校合奥書があるもの16帖を加えた、計198帖が、養和元年8月8日以前の書写である。
この他、「建久九年七月三日書写了」(巻第二百五十一)、「永禄八乙丑二月時正日任本書之筆者 周聡」(巻第三百六十一)、「応永廿六季己亥初吉日」(巻三百八十六)の年紀のある書写奥書がある。また、「(一)校了」のみの奥書が、大半に記されるほか、近世補修の奥書が、本紙・帙に見られる。また、古体の片仮名や乎呼止点等の訓点が付されているものが、77帖を数える。
書風は、種々多様であるが、僧道重校合本を中心とした平安時代末と、建久9年(1198)書写本を中心とした鎌倉時代初期に、大別される。
特に、平安時代末において、整然とした1巻1筆のものと、数人の寄合書との功拙差が、甚だしいのが特徴である。また、単に「校了」とのみ奥書がある巻に、平安時代末から鎌倉時代初期とみられる、習熟した書風のものが多い。
大般若経としては、書写本・版本を合わせて県下最古の遺例であり、かつ、全600帖全員が伝わるほか、経本を納める唐櫃も完存する。
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