名称関連 | 文化財名称 | 江崎のまるきぶね |
要録名称 | 江崎のまるきぶね | |
指定関連 | 指定区分・種類 | 重要有形民俗文化財 |
指定年月日 | 昭和32年6月3日(文化財保護委員会告示 第28号)重要民俗資料 昭和50年10月1日(文化財保護法1部改正に伴う名称変更)重要有形民俗文化財 | |
所在地関連 | 所在地 | 防府市三田尻 防府市立海洋民俗資料収蔵庫保管 |
所有者関連 | 所有者 | 山口県 |
全長7.06cm、幅員は広いところ(舟首より303cmのところ)で83.3cm、舷の外側の深さは舟首より172.7cmのところ(右舷)で53cm、同舟首より303cmのところで40.9cmあり、材のあつみは、舷の上部においては、2.4cm前後、舟首には舟繋用の綱を通すためのくり残しの突起があり、舟首の先端より84.8cmのところには、2個の凹がある。
左舷の上縁部舟首先端より151.5cmのところに第1段の切り下げがあり、184.8cmのところに第2段の切り下げがある。その状況は波の状になっている。右舷においてはそれが稍々、後尾の方にずれて舟首の先端より172.7cmのところに第一段の、190.9cmのところに第二段の切り下げがある。そして同じく先端より321.2cm、378.7cm、5.03cm附近に各舷の上縁に切り込みがあり、又同先端より、651.5cmの即ち舟尾部にも凹が両端に各一個宛計二個ある。
材質は縦(東大・亘理俊次博士、元宇部短大・火野巌博士の鑑定)で一本を刳って作った、所謂刳舟型独木舟で工作はかなり上手に出来ており、ほぼ完全な形で残っているが船底部に若干の破損がある。
[伴出遺物]
船尾より303cm余のところの舟中より菱形をなし、その両端に切り込みのある網の「ぶい」の如きもの一個、(長さ28.8cm、幅最大9.7cm)と舟首より130.3cm位のところの舟底より長さ64.5cmの木片一個、更に舟尾より長さ91cm位で切り込みが二個ある抱丁型に細工された板(長さ98.5cm)が一個出土した。いずれもその用途は、判然としない。
材質は杉材と思われる。この外舟底及び舷側に杉丸太、桜の木で作った杭若干が出土した。
[発見の動機]
浜崎嘉人氏が水産加工場に加工用かまどを設置するため同屋内を掘り下げたところ地下約90cmの地点より発見したものである。
[出土地の地理的概要]
田万川町江崎の市外地は、東南西は丘陵及び山にとり囲まれ、江崎湾が北に向って細長く日本海に開け、そしてこの湾の最奥部周辺に市街ができ、市街地は低地にある。まるきぶねの出土地点は、この江崎湾の最奥部の南岸の県道の両側に立ちならぶ人家をへだてて約45m内外の地点であって、又この出土地点より33m南にはけずりたった断崖をなす丘がある。
[まる木舟出土地点の地層及びまる木舟の出土状況]
出土地点の地層状況は現在の地表下76cm~91cmは埋立したものでその下は泥土層である。この泥土層の上面が即ち旧地表面で、まるきぶねはこの泥土中に存在していた。
舟尾は現在の地表面の91cm下、即ち、旧地表面にあたるところにあった。泥土層の上面に舟の上辺があり舟尾より136.6cmのところにおいては、埋立地の深さ78.8cmあり、そして旧地表たる泥土層の上面より16.7cm下に舷の上辺部があった。又舟尾より27.2cmのところにおいては、埋立地の深さ75.8cmあり、そして旧地表たる泥土層下30.3cmのところに舷の上辺部があり、舟首を北西に舟尾を東南にして丁度舟つなぎ場に舟をつないだ状態のまま埋没したと考えられる。そして当時舟をつないだ岸と思われるところには杭が数本あり、又舟底の下からも杭が発見された。
刳舟型丸木舟は、山口県においては始めての発見であり、勿論、現在本県においては、使用されておらず、その製作技法も伝えられていない。ただここに注目すべきは「萩古実未定巻之覚」という本に萩鶴江の漁夫は元禄、宝永の頃までまるきぶねを使用していた記事のあることである。即ち「鶴江釣りと漁人の舟は丸木舟とて田舎の水溜の様に木を鑿りて舟として用之元禄宝永頃迄大方如此何時よりか今の様になりたり」とある。丸太舟とて田舎の水溜の様に木を鑿りて舟とし、というようにその造りについてはまことにばく然とした記事であってその詳細はわからない。とにかく萩鶴江といえば江崎よりあまり遠くない同じ萩藩内の事でもあり、必ずや江崎地方にもその使用のことはあったと考えられ、この江崎出土のまるきぶねの年代を考察するに貴重な一つの鍵となるもので重要な記載である。そしてこの江崎出土のまるきぶねの製作技法についてみるに既に金属製の刃物を使用している事は、うなずかれる。岸に打ち込んだ杭は刃物で削り舟首に残っている舟繋ぎ用の綱を通すためのくり残しの突起や、その他舷の数カ所にある穴のあけ工合など何れも刃物を使用した形跡があること等、既に金属製刃物使用期に製作されたものであることを証している。
構造上から見ても舟首に前記の舟繋ぎ用の綱を通すくり残しを作っていること又舟首部において右舷は舟首の先端より172.2cm、左舷においては先端より151.5cmのところに第一段の切り上げがあり、又右舷190.9cm、左舷184.8cmのところに第二段の切り下げがあって左右の舷において21.2cmの喰い違いを生じていることは何のためであるか判然としないが、何れにしても舟首部が高くしてあることは波を切って進むにあたり舟首が波にもぐっても海水の浸入を少くするようにしたものと思われ技術上相当の工夫がめぐらされており、又左右両舷に各三カ所の孔を作っているのは横木を差し込み横の強力さを保たせるためのものであろう。これらはいずれも日本海の荒波に堪えるように工夫された所請海岸型刳舟ということも出来よう。
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