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2018/8/30 【ニュース】重要文化財月輪寺薬師堂の保存修理工事が竣工しました
山口市徳地に所在する月輪寺薬師堂は、文治5年(1189)に建てられたといわれ、県内に現存する建造物のなかでは、もっとも古いものです。大きさは、おおよそ幅12m、奥行き9mで、茅葺のお堂です。何度も修理を繰り返して現在に至っていますが、御本尊を安置している内陣は、最初に建てられた状態をよく維持しています。
今年2月から屋根の葺き替え工事(保存修理工事)を行っていましたが、7月末に工事が終わりました。
屋根を全面的に葺き替えるのは、平成10年(1998)以来、約20年ぶりのことでした。幸いなことに、屋根を除くと傷んだ部分がほぼない状態だったため、工期は短めとなりました。屋根の主な材料である茅(かや:ここではススキ)は、阿蘇地方で採れたものを使用しました。修理直後の今は、右の写真のとおり茅の色が鮮やかですが、数年たつと落ち着いたものとなり、建物になじんでいきます。
茅は植物質の素材ですので、時間がたてば腐り、土にかえります。かつては、葺き替えの際に出た古い茅を肥料として田や畑に入れていました。乾燥した草とほぼ同じ材質のため、環境負荷の小さい、非常に、「エコ」な存在なのです。
しかし、屋根の材料としてみた場合、「土にかえる」という特性は、耐久性の低さと表裏一体の性質です。古くなれば、腐朽して屋根の機能を果たさなくなるため、定期的な葺き替えが必要です。ただ、工業製品のような均質な素材ではないため、あと何年持つのか、適切な修理のタイミングはいつか、という予測を行うのは、簡単ではありません。
実際、月輪寺薬師堂の修理をめぐっては、その難しさを痛感しました。平成27年(2015)ごろの月輪寺薬師堂の屋根は、全体的に磨滅し、一部に苔が生えていましたが、葺き替えから約17年を経過していることを考えると、特段、傷みが激しいという状態ではありませんでした。しかし、その後、劣化が急激に進行し、昨年の春には、軒先近くが大きく陥没し、その部分に草が繁茂するような状態となりました。
右の写真は、ほぼ同じ部分を撮影したものです。上が平成27年(2015)、下が平成29年(2017)です。わずか2年程度の間に屋根の状態が大きく変わったことが見て取れるかと思います。
植物質屋根の葺き替え適期は、おおよその目安があります。しかし、的確な修理のタイミングをつかむためには、建物の様子をよく確認し、実態に即した判断が必要だと、改めて考えさせられた案件でした。(ι)
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